ルイ・ヴィトンの2021年秋冬メンズ・コレクションは、フランスとスイスでのロケや、屋内でのモデルのウォーキングなどを合わせた物語仕立ての映像で発表された。
2018年からデザイナーを担当しているヴァージル・アブローは、1980年生まれのアフリカ系米国人。多様性などについてのメッセージ性の高い作風でも知られる。今回の作品は、肌の色や性差、年齢や職業などにより、人が無意識に覚える先入観や偏見を、ファッションを通して変えていこうとする試みだという。
冒頭は、銀色の重たそうなアタッシェケースを手に、ウールのロングコートを着たアフリカ系の年配モデルが雪山をひたすら歩く。一転して、そのモデルが都会的な道路に見立てたセットの中に入ると、様々な服を着たモデルが好き勝手に歩いていたり、ベンチに座っていたり。
モデルは一見、それぞれの職業などにおいて典型的な格好をしている。たとえば、記者は腕に腕章をつけて新聞を持ち、地味なスーツやストライプシャツにジーンズ。セールスマンは大きなバッグにシックなスーツ姿で、放浪者は布を体に巻いている。しかし、セールスマンのスーツは、ダークなカラーのダブルブレストで一見正統派だが、極太のパンツで裾を引きずるほど長い。放浪者はブランドロゴ入りのエスニックな布を体に巻いているが、パーカに派手な金のバックル付きベルトをしていてクールな雰囲気という具合。
ここ数シーズンの作風は、就任直後に目立ったストリート的でカジュアルな作風は減少傾向にあり、今回のジャケットやコートはスクエアショルダーで素材も形もクラシックだ。ただ、いくつになっても子供心を大切に、というわけか、そんなデザインにおもちゃのような模型飛行機のボタンやバッグが合わせられた。スーツの肩に配した落書き風のブランドロゴや、建物の模型をくっつけたようなブルゾンなど遊び心も満載している。
最初は端正なスーツ姿で行き倒れていたモデルが、後半に生き生きと踊りだすなど、希望を感じさせる演出だった。(編集委員・高橋牧子)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル